
私はこれまで、発達特性のあるお子さんのための「児童発達支援事業所」を複数運営し、日々、子どもやご家族、支援者、そして発達特性を持つ大人の方々と向き合ってきました。
こうした現場で感じるのは、発達障害に関する知識がまだまだ社会に広がっていないという現実です。
特に職場においては、「指示が伝わらない」「報告が遅い」「空気が読めない」といった“困りごと”が、発達特性に起因するものだと気づかれないまま、誤解や摩擦につながっているケースが非常に多くあります。
そこで本記事では、企業の管理職や上司の方々に向けて、ASD(自閉スペクトラム症)・ADHD(注意欠如・多動症)・LD(学習障害)という代表的な発達障害の基礎知識をお伝えします。
発達障害とは?
発達障害とは、脳の発達や機能に関連する、生まれつきの特性の違いを指します。
主に「認知」や「注意」「対人関係」「行動の柔軟性」といった領域で偏りが見られます。
これは「性格」や「甘え」の問題ではありません。
また、本人の努力不足によるものでもなく、「やる気がない」のではなく「やりにくい」のです。
近年では、成人してから診断される方も増えており、自覚がないまま社会で苦しんでいる方も多く存在します。
主な3つのタイプとその特徴
ASD(自閉症スペクトラム)
「何を考えているのか分からない」「こだわりが強くて扱いづらい」。そんな印象を持たれることが多いのが、ASD(自閉症スペクトラム)の特性です。
コミュニケーションの取り方や、物事への関わり方に独特のパターンがあり、職場では“対人関係のズレ”として現れることが少なくありません。
- 対人関係のズレ:相手の表情や気持ちを読み取ることが苦手。「空気を読めない」と言われることも。
- こだわりの強さ:同じ手順・同じやり方に固執する。変更や急な対応が苦手。
- 言葉の理解が文字通り:たとえば「この資料、火曜日くらいまでに仕上げてね」といった曖昧な指示では動きにくい。
■実際の職場では:「冗談が通じない」「柔軟な対応ができない」「同僚との人間関係がギクシャクする」といった場面で困ることがあります。
ADHD(注意欠如・多動症)
「仕事はできるけどミスが多い」「注意力が続かない」「そわそわして落ち着きがない」。それがADHD(注意欠如・多動症)の代表的な特性です。
職場では“ケアレスミス”や“報告の抜け”などが目立ちやすく、周囲との認識ギャップが生まれやすい傾向があります。
- 注意力の偏り:集中できない・すぐに気が散る・忘れ物が多い。
- 衝動性:思ったことをすぐに口にしてしまう。
- 多動性(大人では見えにくい):頭の中が常に忙しく落ち着かない。じっとしていられない感覚。
■実際の職場では:「資料の誤字脱字が多い」「大事な予定を忘れる」「締切直前で焦る」など、ケアレスミスが頻発する傾向があります。
LD(学習障害)
「普通に話せるのに、なぜか仕事の一部だけが極端に苦手」。それは学習障害(LD)の可能性があります。
読み書き・計算など特定のスキルに限って困難があり、知的能力には問題がないため、周囲に理解されにくいのが特徴です。
- 読み・書き・計算など、特定の能力だけに困難がある状態。
- 全体的な知的能力に問題はないが、「文字を読むのが極端に遅い」「文章を書くのが苦手」「数字の桁が理解しにくい」といった特徴がある。
■実際の職場では:議事録が書けない、マニュアルを読むのに極端に時間がかかる、タイピングができないなど、業務の一部だけが極端に苦手なケースがあります。
特性を知ることが、マネジメントを変える
発達障害に関連する困りごとに対して、「気をつけて」「ちゃんとやって」「なぜできないの?」といった言葉は、実はあまり効果がありません。
代わりに有効なのは、具体的で見える化されたサポートです。
サポートの一例(合理的配慮)
- 曖昧な指示ではなく、数字や期限を明示したタスク管理
- 口頭ではなくメールやチャットで指示を残す
- 騒がしくない作業スペースの提供
- こまめなリマインダーの設定
これらは実は特性もある方にだけ有益なのではなく、すべての社員の方にとっても有益なマネジメント方法になります。
おわりに
部下の行動を「わがまま」「やる気がない」と切り捨ててしまう前に、その背景にある“見えない特性”に目を向けてみませんか?
大切なのは、「診断があるかどうか」ではなく「どうすれば働きやすくなるか」という視点です。
発達特性のある人も、ない人も、安心して働ける職場づくりのために、上司としてまずは正しい基礎知識を持つことから始めてみましょう。

