
「この部下だけ、なぜか指示や指導が通らない」
こんなお悩みはないでしょうか。
同じように説明しているつもりなのに、なかなか伝わらない。
他のメンバーと同じ段取りで仕事を進めると、いつも遅れてしまう。
「やる気がないのでは?」「理解力が低いのでは?」と、つい人格の問題にしたくなる場面もあるかもしれません。
しかし、発達特性が背景にある場合、それは「やる気の差」ではなく「脳のネットワーク(配線)の違い」であることが少なくありません。
今回は、発達特性を理解するためのキーワード、「シナプスの刈り込み」についてお話しします。
子どもの脳は「配線だらけの巨大な配電盤」
まず、脳というもののイメージをお伝えします。
子どもの脳は、生まれたときから「大人のミニチュア版」ではありません。
成長の過程で、膨大な数の神経細胞どうしが手をつなぎ合い、ものすごい勢いで「線(ネットワーク)」を増やしていきます。
たとえるなら、「町じゅうに電線を張り巡らせた巨大な配電盤」のような状態です。
- あちこちにつながりがある
- まだどの線を優先的に使うか決まっていない
- 役に立つ線もあれば、ほとんど使われない線もある
こんな「ごちゃっとした」状態からスタートしている、というイメージです。
成長とともに始まる「配線の整理整頓」=シナプスの刈り込み
子どもが成長するにつれて、脳の中ではある変化が起こります。
よく使うつながりは、どんどん太く・速く情報が流れるように強化されていきます。
一方で、ほとんど使われないつながりは、少しずつ減っていきます。
この「よく使う線を残し、使わない線を整理して減らしていく」プロセスのことを、脳科学の世界では「シナプスの刈り込み」と呼びます。
配電盤の例でいうと、「生活に必要なルートの電線は、太く・安定したものに張り替える」「ほとんど使われない電線は、少しずつ取り外してすっきりさせる」といった配線整理が、子ども時代から思春期にかけて行われているようなイメージです。
この整理整頓が進むことで、私たちは「より少ないエネルギーで」「効率よく」情報を処理できるようになっていきます。
またシナプスの刈り込みは、「その人のいる環境になじむための調整」という側面もあります。
例えば、悲しい映画を見れば多くの人が似たような気持ちになるのは、似たような状況に反応しやすい回路が育っているから、と考えることもできます。
つまり、シナプスの刈り込みが行われるのは、「社会性を持って、人と社会の中で暮らしていく」ために必要な活動なのです。
刈り込みの「パターンの違い」が、その人の「脳のクセ」になる
ここからが、発達特性との関係です。
このシナプスの刈り込みは、「誰にとっても同じパターン」で起こるわけではありません。
どのつながりをよく使うのか、どんな環境・経験が多いのか、もともとの脳の特性はどうか。
そういった要因が重なり合うことで、「どの線が残り、どの線が整理されるか」が、一人ひとり違ってきます。
その結果として、
- 目で見た情報を一度に処理するのは得意だが、耳からの指示は苦手
- 一つのことに集中する力は高いが、急な予定変更やマルチタスクが極端に苦手
- パターンやルールを見つけるのは得意だが、曖昧な指示や行間を読むことが苦手
といった「情報処理の得意・不得意のパターン」が、その人の「脳のクセ」として現れます。
この「脳のクセ」が、ASD(自閉スペクトラム)、ADHD(注意欠如・多動症)などの発達特性として、行動のかたちで見えてくることがあります。
つまり、発達特性とは「努力が足りない人」「だらしない人」ではなく、「少し脳の情報処理のパターンが異なる人」と捉えることができるのです。
「やる気の問題」に見えてしまう理由
ところが、職場で実際に目に入ってくるのは「行動」だけです。
「締切を守れない」
「指示を忘れてしまう」
「報連相が漏れる」
「空気を読まずに発言してしまう」
こうした行動だけを切り取って見ると、「真面目さが足りない」「社会人としてどうなのか」と評価したくなってしまいます。
しかし、その裏側には「一度に抱えられる情報量が少ない」「優先順位を組み替えることが苦手」「曖昧な指示を、自分で補って理解するのが難しい」といった脳のネットワーク側の事情が隠れていることがあります。
ここを理解しないまま「気合が足りない」「やる気を見せろ」と叱り続けると、本人は「頑張ってもどうにもならないところ」を責められ続けることになり、自己肯定感を大きく損ねてしまいます。
同じOSではない前提で、やり方を変える
ここまでお読みいただいて、おそらく多くの上司の方が感じるのは、「じゃあ、どう関わればいいのか?」という点だと思います。
大事なポイントは、シンプルに言えばひとつです。
同じOSが入った人材だと思って、同じ設定・同じ操作で動かそうとしないこと。
例えば、パソコンで、Windows用のソフトをそのままMacに入れても、うまく動きません。
それは、Macのやる気の問題ではなく、「そもそも設計が違うから」です。
発達特性のある人との関わりも、これに少し似ています。
- 指示は「いつまでに/何を/どのくらい」を具体的に伝える
- 口頭だけでなく、短くてよいので文章でも残す
- 急な予定変更を減らし、変更が必要なときは「どの仕事の優先度を下げていいか」も一緒に伝える
- 一度に抱えさせず、「今はこれだけに集中していい」という順番を明確にする
こうした工夫は、発達特性がある部下のためだけではなく、多くの部下にとって「仕事がしやすくなる関わり方」です。
性格を変えるのではなく、捉え方を変える
発達特性のある部下と向き合うとき、上司がまず変えるべきなのは、部下の性格や根性ではありません。
「同じやり方でうまくいかない人がいるのは、その人の脳のネットワークの作りが違うからかもしれない」
一度このように考えてみていただければと思います。
そのうえで、「どうすればこの人のネットワークでも動きやすくなるか?」と考えていくことで、関わり方や仕事の回し方が、少しずつ変わっていきます。
同じ人材でも、関わり方次第で「問題児」にも「強い戦力」にもなり得ます。
日常の業務の中で、また社員教育の一貫の中で、ぜひ活用していただけたら幸いです。
なお弊社では、発達特性のある社員との関わり方にお悩みの企業様向けに、管理職研修や個別コンサルティングを行っています。お気軽にご相談ください。

