優秀だった人が、異動した途端に仕事ができなくなる理由

人事異動や昇進のあと、それまで評価されていた社員が思うように成果を出せなくなることがあります。

たとえば、一人で担当業務を進めていたときには、仕事が正確で専門知識も豊富だった社員が、リーダーになった途端に仕事を抱え込むようになることがあります。

また、部下の進捗管理ができない、複数の案件が重なると抜けが出る、上司への報告が遅れるなどが見られることもあるかもしれません。

本人も一生懸命やっているのですが、以前のような成果が出ません。


あるいは、決められた業務を正確に処理することでは高く評価されていた社員が、企画部門へ異動し、自分で課題を見つけて周囲と調整しながら仕事を進めることを求められるようになると、途端に動けなくなることもあります。


こうした状況が続けば、「思っていたほど能力がなかったのではないか」「本人の努力が足りないのではないか」という評価になることもあるでしょう。

もちろん、その可能性もありますが、人が変わったわけではないのに、異動を境に仕事の成果が大きく変わったのであれば、本人だけでなく、もう一つ見ておきたいものがあります。

それは、「その人に求めている仕事がどう変わったのか」です。

「仕事ができる人」という評価は、何を評価しているのか

私たちは普段、「Aさんは仕事ができる」「Bさんは仕事が遅い」「Cさんは段取りが苦手」といった言い方をします。

このような表現を使っていると、仕事の能力はその人自身が持っている固定的なもののように感じます。

しかし、実際の仕事はそれほど単純ではありません。


たとえば、一つの課題を深く考えることと、複数の案件を同時に管理することでは、求められる力が違います。

決められた手順に沿って正確に処理する仕事と、曖昧な状況のなかで自分で優先順位を決める仕事も違います。

専門知識を使って自分で成果物を作る仕事と、部下に仕事を任せ、その進捗を確認する仕事も別のものです。


つまり、「仕事ができる」という評価は、その人だけで完成しているわけではありません。

その人が持っている能力と、その仕事で求められるものがうまく合っていたから、高い成果が出ていたという可能性があります。

そう考えると、異動後に成果が出なくなった社員を見るときにも、少し違った見方ができます。

異動すると、求められる能力も変わる

たとえば、ある社員が専門職として高く評価されていたとします。

担当する仕事が明確で、一つの業務に集中できる。

専門知識を使って、自分で考えながら質の高い成果物を作る。

こうした仕事では非常に高いパフォーマンスを発揮していました。


ところが、その実績を評価されてリーダーになると、仕事の中身が変わります。

自分の担当業務だけでなく、複数の部下の進捗を把握する。

予定外の相談にも対応する。

会議に出席する。

他部署と調整する。

上司へ報告する。事の優先順位を判断し、必要に応じて部下へ指示を出す。


肩書きとしては「昇進」ですが、実際には求められる能力の構成が大きく変わっています。

以前は「一つのことを深く考える力」が成果につながっていたのに、今度は「複数の情報を同時に扱う力」が必要になるかもしれません。

以前は「専門知識の高さ」が重要だったのに、今度は「人に任せる力」や「状況を見ながら優先順位を変更する力」が重要になるかもしれません。


このような場合、異動後に成果が落ちたことだけを見て、「本人の能力が低下した」とは言えないでしょう。

変わったのは本人ではなく、本人に求められている仕事の条件かもしれないからです。

発達特性は「仕事との相性」に影響することがある

このような人と仕事の組み合わせを考えるうえで、一つの視点になるのが発達特性や認知特性です。

人には、情報の受け取り方や整理の仕方、注意の向け方、複数の情報を扱うこと、予定を立てること、曖昧な状況から判断すること、他者とコミュニケーションを取りながら仕事を進めることなどに、それぞれ得意不得意があります。

そのため、ある条件では高いパフォーマンスを発揮する人が、仕事の進め方や環境が変わった途端に力を発揮しにくくなることがあります。


もちろん「仕事がうまくいかなくなったから発達障害ではないか」と考えるのはよくないです。

同じような状況は、経験不足、教育不足、業務量の増加、役割の曖昧さ、上司との関係、職場環境など、さまざまな要因でも起こります。


大事なのは、診断名を推測することではなく、その社員がどのような条件では仕事を進めやすく、どのような条件になるとパフォーマンスが落ちるのかを見ることです。

「なぜできないのか」より、「何が変わったのか」を見る

異動や昇進をきっかけに社員がうまくいかなくなった場合、一度、異動前と異動後を比較してみると状況が整理しやすくなります。

  • 仕事内容はどう変わったのか。
  • 同時に担当する仕事は増えていないか。
  • 本人が判断しなければならない範囲は広がっていないか。
  • 突発的な仕事は増えていないか。
  • 他部署や部下との調整は増えていないか。
  • 指示の具体性は変わっていないか。
  • 期限や時間的な制約はどうか。


なお、これらをチェックするときに気をつけておくべきことがあります。

それは「仕事を楽にできる方法を考えてあげる」ことを優先するべきではない、ということです。

何が原因で成果が出なくなっているのかを把握することが、まずするべきことです。


たとえば、経験が足りないのであれば教育が必要ですし、仕事量が過剰なのであれば業務量を見直す必要があります。

優先順位の判断に困り感があるのであれば、判断基準を明確にする方法があります。


もし、その人の得意不得意と現在の職務そのものが大きく合っていないのであれば、指導を繰り返すことだけが解決策とは限りません。

このような場合は、役割や業務分担、場合によっては配置そのものを検討する必要があります。

苦手を克服させることだけが人材育成ではない

社員が仕事でつまずいているとき、会社として、または部署として本人に改善を求めることは当然あると思います。

仕事である以上、本人にも自分の課題を理解し、必要な能力を身につける努力は求められます。

「得意ではないからやらなくてもよい」という話ではありません。


一方で、企業側にも別の選択肢があります。

その社員に求める役割を整理する。仕事の分担を変える。業務の進め方を見直す。強みを発揮できる業務の比重を増やす。そして必要であれば、配置そのものを見直す、などを検討してみるなどです。


企業にとって重要なのは、社員の苦手をすべて克服させることではなく、限られた人材で組織として成果を出すことだからです。

社員が一つの能力を身につけるために長い時間をかけることと、その社員がすでに持っている能力を活かせる仕事を任せることのどちらが企業にとって合理的なのか、ということは、ケースバイケースです。

本人の成長を考えることと、適材適所を考えることは、どちらか一方を選ぶ話ではなく、両方を考えることが人材マネジメントには必要だと言えます。

「できる人・できない人」から、「どこで力を発揮する人か」へ

もちろん、配置を変えればすべて解決するわけではありません。

本人が取り組むべき課題もありますし、会社として任せなければならない仕事もあります。希望する仕事だけを社員に任せることも現実的ではありません。

だからこそ、人材を「できる人」「できない人」という二つに分けて考えるだけでは不十分です。


仕事がうまくいっていない社員がいたときには、「この人には何ができないのか」だけでなく、「この人はどのような条件なら力を発揮できるのか」という視点も持っておき、本人に求める改善、仕事の進め方、役割、業務分担、配置をそれぞれ検討することが、特性も含めた効果的な適材適所につながるものと考えます。