療育事業所のオーナー様の中には、「同じ採用するなら、未経験者よりも経験者の方がいい」と思っておられる方も多いのではないでしょうか。
療育実践経験が豊富な方は「任せて安心」と思われるでしょうし、任せておくことができれば、オーナー様はさほど運営に関わらなくても事業所の自走が期待できます。
ですが、療育の専門家である私からすると、「療育経験年数を採用基準の主軸においてはいけない」と思っています。
その理由は「経験」が果たして御社にとって意味のある経験なのかどうかが分からないからです。
すなわち有益性をもたらさない経験かもしれないからです。
有益性のない経験とは例えば、
- 単に勤務していただけで療育についての知識はない
- 経験は長いけれど人柄に難ありのため、他のスタッフと軋轢があったり、保護者からのクレームが多い
- いくら指導を受けても、知識や技術が積み重ならない(学習効果が出ない人)
- 我流を貫くタイプの方で、単に自分のやりたいように仕事をしてきた
などが挙げられます。
つまり、経験年数の長さでは計り知ることができない課題を持った人もおられるわけです。
長く働いていたとしても、質の低い事業所で「適当な療育(療育と呼ぶのも憚られる療育)現場」に長年いたのなら、経験年数は何の意味もありません。
また、質の高い療育事業所さんで働いていたからと言って、その人の質が高いとも限りません。
なにか人間性に問題があって辞めたのかもしれないからです(もちろん辞める理由は色々だと思いますが、【敢えて】その人を採用する必要はないですよね。リスクを避けるという意味で)。
つまり、経験年数だけでは計れないものがあるため、「経験年数だけ」を頼りに採用を決定するべきではありません。
では知識や技術が高かったとしたらどうでしょう。このような方なら即決で採用でしょうか。
やはり、この場合も「知識が豊富」「療育技術が高い(高そうに思う)」人だからといって、即採用するべきではないでしょう。
なぜかというと、知識や技術が高い人の中には、(自信の現れから)他のスタッフをいじめたり、利用者に上から目線で偉そうに対応したりする人もいるからです。
このような人に事業所運営を任せてしまうと、やがて事業所全体の空気が悪くなり、悪い評判が立ち、他所に利用者を奪われることにもつながるかもしれないリスクがあります。
そしてさらにオーナー様が関わらない(現場にまかせた)状態になると、ますますその方はお局様化し、貴所を自分の都合のよい職場に変えてしまうだけでなく、他のスタッフ様を巻き込んでオーナー様や管理者様に牙を向くようになるリスクもあります。
実は弊所では、過去にこのようなことを経験をしました。
少しご紹介しましょう。
経験が長くかつ信頼に値する(質が高い支援者)と感じたスタッフを管理職につけました。
管理を任された当初は弊所理念を掲げ、部下指導も積極的に行なっていました。
ですが、このとき私は、オーナーとして一つのミスを犯します。
それはこの管理職の方の仕事ぶりから、私が直接運営に口を出すことを控え、その方に事業所運営(方針や部下指導を含め)を任せたのです。
当初は、熱意を持って仕事にあたってくれていたのですが、やがて我流の指導が始まりました。
この時点でも私は、「自分が任命した責任」もあること、また自ら考え自ら学ぶ思考を持った人だと信じ(信じたいという想いがありました)、運営を任せていました。
ある時、あまりにも我流が進んでいっていると感じたことから、私は一度客観的にその方のやり方をチェックしてみました。
そうすると、任せていた時には気付かなかった色々な問題が見えてきました。
例えば、スタッフ採用における応募者についての意見を求めたところ、次のような答えが帰ってきました。
「あの方は、何か怪しい目をしていると感じました。何か、うち(注:弊所)の技術を盗みにきているような感じの人です」(私は緊張の表れだと感じました)。
「ああ、あの人は、うちの職場には、合わないです。採用はないですね」(理由は?と聞いても明確な答えはありませんでした。私は特に弊所に合わない人だとは思いませんでした)。
これこそが「経験が長くなることで、自分の思考が正しいと思うような錯覚に陥っている」ということの現れです。
他にも、私から見てよく頑張っているなと感じるスタッフの評価を聞いてみたところ「周囲に嫌な思いをさせている」「クセがあるので要注意です」など、否定的な言葉が聞かれるようになってきました。
もちろん部下の課題を見つけてあげることは大切なことですが、「単に指摘しているだけ」なら管理職である意味はありません(指摘だけなら誰でもできます)。
一方で、まだまだ課題があるスタッフに対して、過剰評価(オールA判定)を与えるなど、バランスの悪さも見られました(よくある好き嫌いで部下を評価するというアレです)。
これらがエスカレートしていると感じた私は、もう一度上長としての学びを得た上で再度挑戦してほしいという思いから、本人にそのことを伝え、役割を一つ外すことにしました。
そこからです。
弊所や私への当てつけがひどくなっただけでなく、私が現場を任せていることをいいことに、弊所がいかにひどい職場かということを吹聴してまわるようになったのです。
もちろん管理職の立場であれば、会社の方針を部下に伝えるという役割があります。
また指導するべき部下がいれば、うまく指導する技術が求められます。
ですが、会社の方針を正しく伝えるどころか、反対に部下を味方に引き込み、あの手この手で嫌がらせがはじまりました。
その嫌がらせは弊所のみならず、私にも向けられるようになりました。
「あの人(私のことです)は現場が分かっていない」「ケチだ」「会社として怪しい」など言いたい放題祭りです笑
このときにはじめて私は自分の失敗を感じました。
人柄や実力が伴っていない人を単に「療育経験が長く知識が豊富だから」という理由で責任者にしてしまったのです(上長としての役割や心構え、行動の仕方などについて、かなりの時間を割いて(研修として)説明してきたのですが、残念ながら効果を引き出せませんでした)。
「このままでは弊所の理念が崩れ、何のために療育を行っているのかわからなくなってしまう。そして私の療育理念を信じて通ってくださっている利用者の皆様に申し訳が立たない」
そう感じた私は、テコ入れを行いました。
そのあたりの顛末については、今回の記事の主旨から外れますので、ご関心をお持ちの方は弊所事業所のブログをお読みください。
さて、このような弊所の恥ずかしい経験から何を伝えたいかと言うと、経験が長いから、知識や技術が深いからといってその人に任せてしまうのは「非常にリスクが高い」ということです。
そして、そのリスクを避ける意味でも、「療育経験が豊富(勤務期間が長い)だから採用」といった曖昧な判断基準で採用を決定するのではなく、応募者の人柄、知識、貴所理念への理解と賛同などをしっかりと見極めた上で採用を進めていく必要がある、ということです。
特に、「人柄」「貴所の理念に理解と賛同を示している」の二点は最も重要なポイントになります。
私は、上記の経験以来、「運営を優先するあまり適切でない人を採用する位なら、事業所の運営を中断してでもそんな人は採用しない」という方針に変えました。
幸いにも今のところ、「人員不足で運営できない」といった状況に陥ったことはありませんが、採用は水もの。
もしそのような状況になれば、(残念ではありますが)運営は一時中断するか、事業所を閉鎖するつもりにしています。
このブログをお読みくださっているオーナー様は「少しでも良い療育を提供したい」と思っておられる熱心な方ばかりだと思いますので、「評判を下げるような応募者は、こちらから願い下げである」といった覚悟を持っておことが、結果的に貴所にとって有益な人材(名実ともに優秀な人材)を確保することにつながると言えます。
療育事業所は、オーナー様の想いが形になった(なる)場所です。
繰り返しになりますが「経験年数が長い」ということと「療育スキルが高い」ということは全く別のものであるということ、そして「療育経験年数よりも、人柄と御社理念に賛同して入職されたかどうか」が何より重要であることの二点を押さえた上で、採用面接に臨まれてはいかがでしょうか。
もし採用で悩まれたら、弊所サポートの「オーナー様向け単発相談」サービスをご検討ください。弊所での失敗談も踏まえて、貴所にとって最もよい求人手法について一緒に考えさせていただきます。