
「療育事業は儲かる」
「障害福祉は成長産業」
「未経験でもOK、開業支援します!」
ネットやSNSでよく見かけるこうした言葉。たしかに療育の分野には社会的なニーズがあり、国の制度によって一定の報酬が担保されているため、安定性があるように見えます。
ですが、現場を知る立場から言わせてもらえば、「そんなに甘い話ではない」。むしろ「療育事業で大きく儲けることは難しい」というのが、制度と現実を知る経営者の実感です。
なぜそう断言できるのか。本記事では、数字のマジックに惑わされず、療育事業を持続的に続けていくために知っておくべき「構造」と「戦略」について解説します。
売上は「単価×利用者数」。でも両方に制限がある
ビジネスの基本は、単価を上げるか、販売数を増やすか。
ところが療育事業では、このどちらも難しい。
単価は国(報酬制度)によって一律に決められており、自分で価格設定をすることはできません。また、1日に受け入れられる利用者数にも上限があります。例えば1事業所につき1日10名まで、などの制度上の枠が存在します。
つまり、療育事業は「売上に天井がある」ビジネスなのです。
制度の上限をめいっぱい活用しても、売上の伸びには限界があります。そして、その売上の中から人件費・家賃・教材費・送迎費・研修費などを差し引いた残りが利益になりますが、実際に残る金額は驚くほど薄いというのが実情です。
「事業所を増やせば儲かる」は本当か?
そこで多くの事業者が選ぶのが、「拠点を増やして売上総量を稼ぐ」という戦略です。いわば“薄利多売”。
確かに、1事業所あたりの売上が限られているなら、2つ、3つと増やしていけば売上は増えます。しかし、このスケールアップには大きな副作用がつきまといます。
まず、人材確保が非常に難しくなります。求人を出しても人が集まらない、採用できても理念に共感していない…。そうして、スキルや姿勢に課題のある人材を採用せざるを得なくなります。
すると、支援の質が落ちます。
理念が共有されないまま拠点だけが増えると、現場ごとの支援のばらつきが目立ち、子どもや保護者との信頼関係が崩れていきます。中には、トラブルや虐待リスクが高まるケースもあり、これはもはや“療育”ではありません。
さらに困ったことに、「人を増やせば回る」という経営側の期待は、現場では完全に裏切られます。
パーキンソンの法則:人が増えても現場は楽にならない
「人が足りないから増やそう」と考えるのは自然なことです。けれど、人が増えたからといって業務が減るわけではありません。
むしろ、増えた人材に対応するために、新たな業務が発生します。
新人教育、OJT、情報共有、個別対応、マニュアル整備…。そして最終的に、現場から再び「人が足りません」という声が上がってくる。
これは“パーキンソンの法則”の典型です。
仕事の量は、それをこなす人の数に応じて膨張します。療育の現場も例外ではありません。人を増やせば支援の質が上がるかといえば、むしろ逆。業務過多、連携不足、コミュニケーションの崩壊など、現場の混乱を招くこともあるのです。
見た目の数字ではなく、「質」がすべて
このような背景を知らずに「療育事業は儲かる」と参入するのは、非常に危険です。
むしろ、療育で最も大事なのは“質”です。
人数が少なくても、拠点が小さくても、「ここじゃないと意味がない」と言ってもらえるような支援が提供できれば、保護者の信頼を得ることができます。
• 一貫性のある支援内容
• スタッフの視座の高さ
• 保護者との丁寧なコミュニケーション
こうした“地道な取り組み”こそが、地域に根づく療育事業の核になります。
「信頼」を積み上げることが最大の資産
療育事業は、いくら広告にお金をかけても、すぐに利用者が集まるわけではありません。むしろ、最も効果的なのは、保護者からの“口コミ”です。
そして、こうした信頼の積み重ねは、将来的な“横展開”の資産になります。
たとえば、
• 就労支援や訪問支援など、他サービスへの展開
• 講演会・研修・教材開発といった教育的アウトプット
• SNS・YouTubeなどでの社会的発信
• 公教育や医療機関との連携
これらはすべて、「信頼」がベースにあって初めて成立するものです。支援の質に妥協せず、目の前の子どもや保護者に誠実に向き合ってきた実績が、新たな事業機会を生むのです。
利益は“理念の副産物”である
「よりよい支援を届けたい」
「この子の未来のために、今できることをしたい」
そんな想いから始まる療育事業こそが、結果として地域に信頼され、長く支持されるブランドになります。
理念を持ち、継続的に努力を重ねること。そこから自然と“数字”もついてくる。
療育事業で利益を上げたいなら、まずは志と信頼の積み重ねを大切にすること。それが、最も安定的で、持続可能な成長モデルです。
「療育事業は儲かります」という甘い言葉に騙されないで
制度の制限、スタッフの質、支援の中身、保護者との信頼関係。
療育事業は、簡単に儲かる“ブルーオーシャン”ではありません。
むしろ、理念も覚悟もなく飛び込めば、数年以内に撤退を余儀なくされる可能性も高い世界です。
だからこそ、これから療育業界に関わるすべての人に伝えたい。
「療育事業は儲かります」という、安易で無責任な言葉に、カモられないでください。
そんな言葉をホイホイ信用して数百万円をつぎ込むあなたは、単なる「情弱のネギを背負ったカモ」です。
吸い取られるだけです。
大切なのは、制度を理解し、現場のリアルを受け止めながら、
“信頼される支援”を地道に積み重ねていくこと。
そこにしか、持続可能な利益も、真のやりがいも存在しないのです。

