
療育事業所を運営していると、つい「スタッフに嫌われたくない」「雰囲気が悪くなるのは避けたい」という気持ちが働くものです。
しかし、長期的に見れば事業所オーナーがスタッフのご機嫌を取ることは、組織の成長にとってマイナスに働く場面が多々あります。
ここでは、なぜご機嫌取りが危険なのか。そして、どうすれば健全な職場づくりができるのかについて、私なりの考えと弊社の失敗経験を交えてご紹介します。
ご機嫌取りが生む「3つの弊害」
1. 基準がぶれる
ご機嫌取りをすると、判断が「誰かの気分」に左右されます。
本来は会社としての方針・ルール・価値観に基づいて決めるべきところが、「嫌われないために」という基準にすり替わってしまいます。
その結果、スタッフは「この前はOKだったのに、なんで今回はダメなのですか?」という不信感を抱きやすくなります。
2. 真面目に働く人ほどしんどくなる
ご機嫌取りが行われると、「強く言う人」「文句を言う人」「不機嫌になりやすい人」の意見が通りやすくなります。
これらの人は、やがてお局さんになっていき、オーナーの意見よりも強大になっていき、職場を支配するようになります。
すると、淡々と仕事をしている人や、誠実に頑張っている人が報われにくくなり、離れていく原因になります。
3. チームの成長が止まる
ご機嫌取りによって難しい話題を避けるようになると、「改善点」「ミス」「課題」といった本来向き合うべきポイントに触れることができなくなります(言いたいことが言えない、または言ってはいけない空気感が漂います)。
つまり、組織が成長するために必要な意見交換の場が失われていきます。
そのため、組織は澱んだ状態になり、陳腐化していきます。
【弊社の失敗】実際にあったエピソード
以前、福利厚生の一環として「スタッフの誕生日に、上限額内で希望するプレゼントを贈る」という施策を試験的に導入しました。もちろん、「喜んでもらえれば」「モチベーションの向上につながれば」という好意的な意図からの取り組みです。
しかし、実際に始めてみると、反応は予想以上に大きく分かれました。
素直に喜んで受け取ってくれるスタッフがいた一方で、「まだ届かないんですか?」「いつもらえるんですか?」といった、強い要求を口にするスタッフも現れるようになりました。
やがて、そうした「くれくれ」傾向が強まり、職場全体に品位を欠くような空気が生まれてしまいました。
中には、退職した元スタッフからも、
- 「退職しても受け取る権利があるので、自宅に送ってください」
- 「退職者を無視するのですか?早く送ってあげてください」
- 「引っ越したので、◯◯に送ってください」
- 「送らないのは嫌がらせです。訴えます」
といった連絡が届くようになり、私たちが「気持ち」として行っていた福利厚生が、いつの間にか「当然の権利」として受け取られてしまうという現実に直面しました。
本来、誕生日プレゼントは「好意」によるものであり、「権利」ではありません。
にもかかわらず、ここまで要求がエスカレートしてしまったことで、ご機嫌取り的な施策は、必ずしも喜びやモチベーションの向上につながるものではなく、むしろ「欲求」や「不満」を助長してしまう危険性があると痛感しました。
なお、このような要求や不満を繰り返すスタッフは、ルールに基づいて丁寧に運用を進めていく中で、最終的には自然と退職していきました。
一方で、好意を素直に受け取ってくれたスタッフは現在も定着し、前向きに働き続けてくれています。
この経験から、誠実に働く人が気持ちよく働ける環境を守るためにも、「迎合」ではなく「誠実な関わり」こそが必要であると、強く実感しました。
必要なのは「ご機嫌取り」でなく「誠実なコミュニケーション」
オーナーが目指すべきは、「スタッフと仲良くすること」ではなく 「スタッフを尊重する姿勢」 です。
誠実さ=「伝える勇気」を持つこと
たとえば、
・改善すべき点
・間違っている点
・次に進むために必要な行動
これらは、言いにくくても伝える必要があります。
もちろん、厳しく言う必要はありません。
大切なのは 相手を想い、会社を想い、誠実な姿勢で伝えること です。
「嫌われないこと」は目的にしてはいけない
人間関係の良い職場というのは「全員が気に入られることを目指している職場」ではありません。
信頼関係は「言うべきことをきちんと言える関係」の上に築かれます。
スタッフが本当に望んでいるのは「安心できる職場」
スタッフは決して「ご機嫌を取ってほしい」と思っているわけではありません。
本当に求めているのは、
- 話を聞いてもらえる
- がんばりがきちんと評価される
- 改善すべきことは、理由とともに伝えてくれる
- ルールが公平に機能している
という 安心感 です。
マズローの5段階欲求でいう「心理的安全性」がベースになります
安心感がある職場では、次のステージである「愛と所属の欲求」に向かうことができます。
オーナーがご機嫌取りをやめ、ルールに則って運営し、スタッフに誠実に向き合うことで安心感が生まれ、盤石な組織運営の基礎が作られます。
経験から弊社が変えたこと
弊所では、この反省点に立って、以前ご紹介した「姿勢のルール」の徹底と、ゆずフィロソフィーの策定を行いました。
また、それを社員全員に周知し、「声が大きい人が勝つ文化は作らない」「誠実に理念に沿って実践する人が認められる社風を作る」ことを宣言しました。
同時に、「フィロソフィーに賛同できない方は、無理に仲間であることはない」ということも、冷静にしかしはっきりと伝えました。
さらに採用面接においては、経験年数やスキル以上に、誠実に仕事に向き合う人か、学ぶ姿勢のある人か、他責ではない人か、というのを基準に選考するようにし、こういった要素のみられない方は採用しないという方針を取っています。
誠実さと覚悟を示したことで、(一定の退職者は出ましたが)現在は、開所以来最も安定した運営になっています。
「運営継続を優先(組織作りを後回しに)すると、一時は安定するかもしれないが、長く経営していくことはできない」ということと、「経営者としての覚悟を示すことは、人が離れていくように見えて、俯瞰してみると組織はどんどんまとまっていくことにつながる」ということを、失敗経験から学びました。
誠実な関わりは、スタッフの成長と事業の発展を支える
スタッフのご機嫌をとるのは、一見すると「優しい」ように見えます。でも実際には、
- 会社の基準を曖昧にし
- 真面目なスタッフを苦しめ
- 成長のチャンスを奪う
という結果を招いてしまいます。
必要なのは、迎合ではなく誠実な関係性です。
そして誠実な関係性は、スタッフの成長を促し、利用者様により良い支援を届け、結果として会社全体を前に進めてくれます。
そのためには、オーナー様の「ご機嫌取りはしない」「特別に許される人はつくらない」という覚悟を示すことは、組織という土壌づくりにおいて、何よりも重要であり、それが結局会社を長く運営していくことにつながると言えます。
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