お局様を許さない覚悟が、療育事業所の質を高める

これからの療育事業所では、オーナーさんが「誰を残して、どんな文化を残すか」を選ばない限り、どれだけ仕組みを整えても、制度が求める「質」には届きません。

そして、その現実をもっとも鋭く突きつけてくるテーマが「お局様問題」です。

これは単なる人間関係のトラブルではありません。

制度改革が進む中で、事業所の未来を左右する経営の課題でもあると言えます。

制度は「量」から「質」で選ぶ時代へ

ここ10年で、児童発達支援・放課後等デイサービスの事業所数、利用児童数、総費用は大きく増加しました。

地域によっては供給過多とも言われる状況になり、国は明確に方向転換を始めています。

これまでの「量を増やす」フェーズから、「質で選ぶ」フェーズへ変わりつつあります。

最新の報酬改定やガイドラインでは、例えば次のような点が強く求められています。

  • ガイドラインに沿った支援内容と運営
  • アセスメント・モニタリングに基づく個別支援計画
  • PT・OT・ST等の専門職などの配置
  • 職員研修や関係機関連携、情報公表

つまり、「なんとなく預かっている事業所」や「昔からのやり方で、紙の上だけ揃っている事業所」は、今後ますます評価されにくくなっていきます。

なぜ「お局様」がいると制度対応が進まないのか

一方で、現場ではこうした制度の流れと逆行する力が働くことがあります。

その象徴的な存在が、いわゆる「お局様」と呼ばれる人たちです。

ここでいう「お局様」とは、単に長く勤めているベテラン職員のことではありません。役職とは別に、職場の空気や暗黙のルールを握り、その人の価値観や機嫌が実質的な判断基準になってしまっている状態を指します。


本来であれば、事業所の方針やマニュアルに基づいてルールが決まるはずです。

しかし実際には、新しい取り組みを進めようとすると、目に見えない抵抗力が働きます。


例えば新しい記録様式やケース会議を導入しようとすると、「前からこうしている」「現場はそんな余裕ない」と一言で流される。

ガイドラインに沿って支援内容を整理しようとすると、「子どもは教科書通りにいかない」と感情論で言い返される。

若手や中堅が改善提案をしても、力でねじ伏せることで場の空気が凍りつき、誰も発言しなくなっていく。

結果として、オーナーさん職場改革は立ち消えになります。


さて、その状態が続くと、何が起きるでしょうか。

・個別支援計画は「書くだけ」になり、モニタリングや振り返りが形骸化する
・研修は希望者任せで、組織としての底上げが起こらない
・建設的な意見が、現場の“マイルール”にかき消される

制度が求めているのは、「質の高い療育が提供できる仕組み」です。

しかし、お局様の影響力が強い職場では、仕組みよりも「その人のご機嫌」が優先される文化ができあがってしまいます。


いくら資料を整え、フォーマットを新しくしても、実践しようとすると横槍が入り、中断せざるを得ない。

そのズレが、やがて報酬にも負の影響を及ぼすようになっていき、現場も疲弊していきます。

仕組み化しても「組織文化」がないと職場は崩壊していく

多くのオーナーさんは、現場を良くしようと真剣に考えています。

マニュアルを整えたり、デジタルツールを活用したりと色々と試行錯誤する中で努力を続けています。

その方向性は間違っていません。


ただし、そこには大前提があります。

「ルールを守る人が損をせず、壊す人が得をしない文化」であること、です。


もし逆になっていれば、いくら仕組みを整えても健全な職場にはなりませんし、療育事業所としても機能しません。むしろ、次のような現象が起こります。


まず、まじめな人から辞めていきます。

新しいルールを守ろうとする人、子どものために変えようとする人ほど、空気の圧力にさらされ、疲弊して去っていきます。


次に、専門職が定着しなくなります。PT・OT・STのようにエビデンスを重視する職種は、感情で支配される職場に長くはとどまりません。

専門性が活かされない環境では、活躍できないことを知っているからです。


さらに、情報共有が「お局様の気分」に依存することで、大切な情報が抜け、漏れや思い込みが増えることにつながり、やがて利用者からのクレームや監査リスクも高まります。

「質を上げたい」「制度にきちんと対応していきたい」と本気で思っている人ほど報われない、という職場になってしまうのです。

職場を守るために、まず決めるべきこと

だからこそ、順番が重要です。

仕組みを作る前に、まず文化を定める必要があります。


第一に、事業所として絶対に守りたい理念・支援のスタンスを明確にすることです。

子どもの権利を尊重するのか、保護者と対等な関係性を構築するのか、チームアプローチを優先するのか。

曖昧な理念では、判断基準も曖昧になります。


第二に、その理念を支える「姿勢のルール」を行動レベルで定めることです。

例えば、

  • 挨拶をする
  • 陰口や無視をしない
  • 報連相を徹底する
  • 他職種の専門性を尊重する

といった、誰でも守れる具体的な行動です。

抽象論ではなく、日々の振る舞いに落とし込むことがポイントです。


第三に、そのルールを守る人を守り、壊す行動には明確にNOを出す方針を持つことです。

評価の基準に「チーム貢献」や「他者の尊重」「お互い様の気持ちと行動」を組み込み、年数や声の大きさではなく、文化への貢献度で評価するようにします。


その際、オーナーさんは「誰を残して、どんな文化を残すか」を選ぶ立場となります。

長くいる人かどうかはさほど重要ではありません。

御社の理念と文化を一緒に守ってくれる人かどうか。

それを基準にしなければ、やがて風紀は乱れ、優秀な人から逃げ出すようになります。

沈みかけた船からは、気の利いたネズミから逃げ出す」ということわざが、現実となります。

お局様から「職場を守る」具体的な運営方法

ここからは、「誰かを排除する方法」ではなく、組織を守るための運営について考えていきます。

こういった場合、絶対にやってはいけないことがあります。

それは、感情で対処しようとすることです。

必ずこじれます。


するべきことは、仕組みとして回る形に落とし込むことです。

① 方針と行動ルールを明文化する

最初に取り組むべきなのは、「暗黙の了解」をなくすことです。

お局様問題が深刻化する職場の多くは、何が正しくて何が間違いなのかが曖昧です。


その曖昧さの中で、声の大きい人の価値観が「正解」として固定化されていきます。


その状態を断ち切るために、理念だけでなく具体的な行動レベルまで落とし込んだルール(これが姿勢のルールになります)を文章として残します。

例えば、次のような内容です。

  • ハラスメントや新人つぶしを容認しない
  • 陰口や無視を許さない
  • 子どもの前で職員同士を否定しない
  • ミスは責めるのではなく共有して改善する

ポイントは、「雰囲気を良くしましょう」といった抽象論で終わらせないことです。

誰が見ても判断できる行動基準にすることが重要です。

さらに、それを単なる掲示物にせず、就業規則や所内ルールとして正式に位置づけ、全体ミーティングで説明し、新人オリエンテーションでも必ず共有します。

必要であれば署名を取り、「この文化を守る」という合意を可視化します。

そして、決めたルールは、徹底して守らせます。

これだけで職場の空気感は大きく変わっていきます。

② 評価制度に「文化」を組み込む

次に重要なのは、評価制度です。
どれだけ美しい理念を掲げても、評価の方向性が間違っていれば文化は形成されていきません。

よくある失敗は、資格・経験年数・スキルだけで評価してしまうことです。

これでは、チームを壊している人が高評価になる可能性が出てしまいます。


そこで、評価項目の中に明確に「文化を守る行動」を組み込みます。

  • チームへの貢献度
  • 他職種へのリスペクト
  • 報連相の徹底
  • 後輩や先輩、上長への関わり方や態度
  • 姿勢ルールの遵守

重要なのは、これを理念として掲げているだけでなく、評価シートの項目に必ず組み込んでください。

いわゆる、「能力」「成績」「情意」の項目でも構いません。

ここに上記のような行動を評価として入れていきます。


また、面談では社内文化に関する行動を具体的にフィードバックします。

「ケース会議での情報共有が助かりました」
「新人への声かけが職場の安心感につながっています」

こうした言語化された評価が、「守る人ほど報われる職場」を作ります。


反対に姿勢のルールが守れていない人には、感情を抜きにして「姿勢のルールを守ってください。上長の指示には従ってください」「職場の仲間を敵と捉えるような言動は慎んでください。職場に仲間は敵ではありません」などと、言語化して伝えます。

守れないなら、守れるようになるまで、繰り返し伝え続けます。


弊社では、「姿勢のルール」を制定し、回覧するだけで終わらせるのではなく、共有ファイルとして常に確認できる状態にしています。

理念は掲げるだけでは意味がなく、いつでも立ち返れる仕組みにして初めて文化になります。

また、賞与時と年度末には評価を実施し、その評価結果を賞与や昇給の根拠にしています。

チームに貢献した人と、常に不平不満を口にし、職場の空気を乱してしまう人が同じ評価・同じ賞与であるならば、まじめに努力している人ほど損をする職場になってしまいます。

そのような職場に、有能な人材が長く残ってくれることはありません。

だからこそ、評価と報酬を通じて「どの行動を組織として大切にするのか」を明確に示す必要があります。

③ マイルールを無効化する標準化

お局様を生み出す原因は、多くは属人性に依存するからです。

「この子のことは私しか知らない」「私のやり方が正しい」という状態が続くと、組織は個人依存になります。

これを防ぐためには、業務の標準化が不可欠です。

標準化すべき領域は幅広くあります。

  • 記録フォーマットの統一
  • 申し送りの方法
  • 個別支援計画作成手順
  • ケース会議の進め方
  • 保護者連絡のルール

単にフォーマットを作るだけでは不十分です。

チェックリストや手順書を整備し、「誰がやっても一定のレベルを保てる」形にする必要があります。

業務の判断基準を「○○さんの経験」から「事業所のルール」へ変えていくことで、属人性を減らし、お局様の影響力を分散させる鍵になります。


弊社では、随時書式やルールの標準化を進めています。

フォーマットは種類ごとに整理し、イントラネット上に掲載し、誰でもいつでも確認できる状態にしています。

何か問題が発生した際には、「まずイントラネットを確認してください」と伝え、そこに掲載されているルールに基づいて修正・対応を行うようにしています。

これは、特定の誰かの判断に依存しないためです。「○○さんがこう言ったから」ではなく、「事業所としてこう定めているから」という基準で動いてもらっています。

そうすることで、マイルールが生まれる余地を減らし、文化を守ることにつながります。

④ 相談窓口と対応フローを整える

文化を守るためには、問題が起きたときに確実に対応できる体制が必要です。

若手や中堅が「言っても無駄」と感じる職場では、いずれ優秀な人材から離れていきます。


相談窓口は複数用意できると理想です。

  • 管理者への直接相談
  • 外部顧問や社労士など第三者相談
  • 必要に応じて匿名相談

そして、対応は必ず同じ流れで行います。

  1. 事実確認(いつ・どこで・何があったか)
  2. 関係者ヒアリング
  3. 必要な指導や注意
  4. 相談者へのフォロー

ケースごとに対応がぶれると、不信感が生まれます。一貫性こそが信頼を生みます。


弊社では、まずは直接の上長へ相談、上長判断や対応が難しい場合は本部や役員が対応、さらに社労士をはじめとする外部顧問への相談を行っています。

もちろん秘密を守る、弱い立場の人を守るという姿勢をしっかりと伝えることは、スタッフへの安心感を生み出すだけでなく、抑止力としても効果が高いという印象があります。

⑤ 問題行動への対応は「事実ベース」で

お局様対応で最も避けるべきなのは、感情でぶつかることです。

「あなたが悪い」といった抽象的な指摘は、必ず対立構図になっていきます。


正しいアプローチは、行動に焦点を当てることです。

  • どの行動が
  • どのルールに
  • どのように反しているのか

を具体的に整理し、個別面談で共有します。

改善点と期限を明確にし、記録を残す。必要であれば書面で指導を行う。

それでも改善が見られない場合は、評価・配置・役割の見直しを検討します。

ここで重要なのは、目的を見失わないことです。
相手をやり込めることではなく、「残したい人と文化を守ること」が目的です。

そして、間違っても「この人がいないと仕事が回らないから」という理由で判断を鈍らせてはいけません。

そのような姿勢が見え隠れした瞬間に、お局様は状況を察します。

こうなると、いくら面談を重ねたとしても、オーナーさんの本気のメッセージは伝わらなくなります。

⑥ 最終的に問われるのはオーナーの覚悟

制度が事業所を「質」で選ぶ時代において、文化を放置することは経営上のリスクです。

文化は自然に良くなることはありません。

放置すれば、必ず声の大きい人に支配されます。


そのため、オーナーさんは以下のことを考えておく必要があります。

  • いないと回らない人を守るのか
  • 理念を守る人を守るのか

この選択を曖昧にしたままでは、どれだけ仕組みを整えても、本当の意味での「安心した職場」にはなりません。また療育の質が上がることはありません。

なぜなら、それはオーナさんが考える療育ではなく、お局様のしたい療育(仕事)に他ならないからです。

仕組みはいくらでも作れます。

しかし文化は、守ると決めなければ守れません。

そして、その決断ができるのは、オーナーさんだけです。

覚悟を持たない限り、生き残れない時代が始まっている

療育業界にとっては、これから厳しい時代に入ります。

制度は確実に「質」にシフトしています。

しかしそれは、裏を返せば、質の高い療育を提供している事業所にとっては追い風でもあります。


追い風にできるかどうかは、文化を守れるかどうかにかかっています。

オーナーさんの大切な想いが詰まった事業所を、誰かの政治や力関係の舞台にしてはなりません。

そのために必要なのは、難しいことではありません。


姿勢のルールを定め、それを本気で実行すること。

そして何より、「真面目に仕事に取り組むスタッフを全力で守る」「努力する人が報われる職場をつくる」と決めることです。

受け身ではなく、能動的であるべきです。

それがオーナーさんの覚悟として、スタッフの皆さんに伝わっていくと思います。


質の時代とは、覚悟の時代です。

その覚悟を持った事業所にとって、この変化は必ず追い風になります。


お局様問題の構造や、ゆずの事例を通して見えてきた組織の課題、そして「姿勢のルール」の考え方については、以前の代表ブログで詳しく書いています。

本記事とあわせてお読みいただくことで、お局様問題の構造と実践的な対策の両面をご理解いただけます。