
「何度言っても同じミスを繰り返す」「指示を出しても動き出すまでに時間がかかる」「注意すると黙り込んでしまう」。
現場で部下を見ていると、「正直、この人はやる気がないんじゃないか」と感じてしまう場面は、どうしても出てくると思います。
忙しい日々の業務の中で、社長や上司の心の中に「ここまで言っても変わらないなら、もう仕方がないのかも・・・」というあきらめが沸き起こってくることもあるかもしれません。
ただ、その時に「この人は、やる気がない」というラベルを貼ってしまうと、上司にも部下にも、もったいないことが起きてしまいます。
ここでは、「やる気がない」で片づけてしまう前に、発達特性という視点も踏まえながら、上司が持っておきたい新しい心がけと、今日から試せる関わり方の工夫について、ご紹介します。
「やる気の問題」だけで片づけてしまう前に
「やる気がない」という言葉は、よく使いますが、イメージがざっくりしています。
やる気がないを具体的に考えてみると、
- 指示の意味をうまく整理できていない
- 優先順位がつけられず頭がパンクしている
- 過去の失敗経験から「また怒られるかも」と不安が先に立っている
など、行動の裏側にはさまざまな要因が絡み合っています。
そこに「発達特性」という、脳の情報処理のくせや認知の特性が関わっているケースも、決して少なくありません。
こういったことは、つい性格や根性の問題と言われてしまうことがありますが、そうではありません。
実は本人は「やろうとしている」けれど、「やり方や環境が合っていない」ということが多々あります。
もちろん、「全部を特性のせいにしましょう」と言いたいわけでもありません。
「この部下は本当にやる気がないのか?」と考える前に、一度「関わり方や仕事のやり方を変えてみるとどうだろう?」と考えていただくことで、部下の方のスムーズ動きにつながることは多くあります。
発達特性を踏まえた捉え方
発達特性のある人は、例えば次のような「情報処理のくせ」を持っていることがあります。
- 抽象的な指示を、具体的な行動に落とし込むのが苦手
- いくつものことを同時に進めると混乱しやすい
- 予想外の変更や曖昧な表現に強い不安を感じやすい
このような状況に陥っている時に、「普通これくらいできるよね」「新人でもこのレベルは当たり前だよね」と言われてしまうと、彼らはどう感じるでしょうか。
ご本人なりに頑張っているのに成果が出ない、ということは自分でも自覚できている場合が多いですが、こういった場合は上司の方とすれ違いが起こりやすくなるため、注意が必要です。
こういった状況が懸念される場合は、上司の側が以下のような捉え方をしてみるのもいいかもしれません。
- もしかしたら、指示の受け取り方や仕事の組み立て方に特性があるかもしれない
- 「やる気」ではなく「環境とやり方」を変えることで動きやすくなるかもしれない
こう考えていただくと、関わり方が大きく変わることがあります。
これは、発達障害と診断されているかどうかということではなく、「この原因は、脳のクセ(思考のクセ)によるのかもしれない」という視点を持ってみるということです。
今日から試せる、関わり方の3つの工夫
ここからは、診断の有無にかかわらず、「発達特性があるかもしれない部下」にも有効な3つの工夫をお伝えします。
どれも、上司の方が「明日からの声かけと仕事における指示の仕方」を少し変えることで始められるものです。
工夫1:仕事を「小さく区切って」「見える形で」指示を出す
例えば、このような指示の出し方をしてなかったでしょうか。
「この案件について、一通り任せるから、来週の打ち合わせまでに形にしておいて。」
「この資料、似たようなやつ前にもやったの覚えている?あんな感じで頼むね。」
これらは一見すると、裁量を与えているように見えますが、発達特性がある部下にとっては、次のようなつまずきがあります。
- 「一通り」「あんな感じ」といったあいまいな表現を、自分の中で具体的にイメージするのが難しい
- どこがゴールなのかが分からず、不安なまま作業をはじめてしまう
- 途中で確認していいのか分からず、「怒られないように」することが主目的になってしまう
こういった場合は、次のような方法に変えてみてください。
「今回のゴールは、取引先に概要を説明できるA4一枚の資料があればOKです。」
「社内会議で5分説明できるレベルで、ポイントだけ押さえたいです。」
「今日は、過去の資料を2つだけ探して、使えそうなスライドをピックアップするところまでで良いので、15時までに一度見せてください。」
「まずは3つ候補を出してくれればいいので、その段階で一緒に方向性を決めましょう。」
・やること(何をするのか)
・いつまでに(期限)
・どこで一度見せるか(途中のチェックポイント)の3つを見て分かるようにしておく。
こういった工夫をすることで、「何をどう進めればいいのか」が視覚的にも分かりやすくなり、頭の中でパンクしてしまうリスクをかなり減らせます。
「ゴール(ミッション終了)を共有して、最初の一歩を一緒に決める」というイメージになります。
工夫2:フィードバックは「その場で」「1〜2点に絞って」伝える
発達特性がある部下の方は、一度にたくさんの情報を伝えられると、何から手をつければいいか分からなくなることがあります。
上司としては、「ここも気になる、あそこも直してほしい」と思うあまり、ついこんな伝え方になってしまうことはないでしょうか。
「この資料ですが、漢字のミスも多いし、構成も分かりにくいし、数字的な根拠も甘いですね。」
「前にも言いましたが、報連相のタイミングも遅いし、期日も守れていないですよ。」
言っていることはどれも必要な指摘ですが、受け取る側としては、「次はどこから直せばいいのか」わかりづらく、思考や行動が止まってしまうことにつながりかねません。
そのためぜひ意識していただきたいことは、
- できるだけ「その場で」「小出しに」伝える
- 一度に伝えるのは、多くても1〜2点に絞る
という2点です。
例えば、次のような伝え方に変えてみます。
「今の資料、構成はこのままで良いので、「結論→理由→事例」の順番になるように並び替えてみてください」
「今回いちばん大事なのは「期日を守ること」です。内容の細かいところは一緒に後から直せばいいので、期日に意識をしてください」
「どこを優先して直せばいいか」を一緒に決めてあげるだけでも、部下の方は動きやすくなりますし、「今はこれが大事です」と優先順位を伝えてあげることで理解を促しやすくなります。
また、良かった点もあわせて伝えることが大切です。
「このグラフの選び方はすごく分かりやすかったです。その上で、数字の根拠については、もう少し深めて考えてみてください」などです。
大人も子どもも、基本的に「認められた」経験が、次のエネルギー(モチベーション)につながります。
工夫3:ミスすることを想定し「相談のタイミング」と「一緒に確認するポイント」を決めておく
特性のある部下は、「ミスをしてはいけない」という思い込みが強すぎるあまり、「途中で迷っても相談に来ない」「期限ギリギリまで抱え込んでしまう」「結果として、大きなミスややり直しにつながる」というパターンに陥りやすいことがあります。
ここで役立つのが、「ミスをゼロにする」という発想から、「ミスが大きくなる前に一緒にチェックする」発想への切り替えです。
例えば、仕事をお願いするときに、次のように伝えておくなどです。
「このタスクは、最初の段階で一度見せてください。完璧じゃなくていいので、「方向性が合っているか」を一緒に確認したいと思っています」
「締切の前日には、10分だけ時間を取って、一緒に最終チェックをしましょう。」
さらに、チェックするポイントもあらかじめ共有しておくとより良いです。
「数字の桁、相手の会社名、日付など、「絶対に間違えてはいけないポイント」や構成や表現の細かな言い回しなど、「上司の方と一緒に考えていけばいいポイント」を分けて伝えることで、部下の中に「ここは早めに相談してもいいんだな」「ここだけは自分でもう一度見直そう」という基準ができます。
上司の役割は、「ミスが大きくなる前に一緒に調整する伴走者(サポート係)」になることです。
こういった関わりを繰り返していくことで、部下の方も「怒られないことを目標」にするのではなく、「相談しながら詳細を詰めていく」仕事の仕方に変えていきやすくなります。
上司ひとりで抱え込まないために
もちろん、こういった工夫を試しても、それではうまくいかないケースは当然あると思います。
その場合、上司の方が「自分の指導が悪いのでは」や「あの部下だけ、特別扱いしているのでは」と感じてしまい、誰にも相談できないまま疲弊してしまうことも少なくありません。
本来、特性のある部下への配慮や調整は、上司の方が個人でどうにかしようとするようなものではなく、組織全体で考え、工夫するべき課題です。
- 業務への支障が大きい
- 本人のメンタル不調が懸念される
- チーム全体が疲弊している
こうしたサインが見えたときには、早めに人事担当者や保健担当スタッフ、外部の専門家に相談することをご検討ください。
「どこまでが上司個人の役割で、どこからを組織として対応するべきなのか」というラインを、会社として決めておくことが、上司自身を守ることにもつながります。
おわりに|「やる気がない」から、「一緒に考える・ヒントを与える」へ
発達特性のある方にとって、「できない」ことには(見えなくても)必ず理由があり、仕事の任せ方や伝えかた、関わり方を少し変えることで、部下が力を発揮しやすくなるといった効果も十分期待できます。
そのためには、見えている問題とは別のところに隠れている問題について考えてみること、そして環境とやり方を変えてみる(工夫してみる)こと、の2点が上司の方の「伝わらないもどかしさ」を解消することにもつながります。
それこそが、これからの上司に求められる新しい前提なのだと思います。
もちろんそのような視点で関わりを持ってもらった特性のある部下の方にとっても、その方の持っている能力を最大に出すことにつながり、企業としてのパワーにしていくことができると思われます。
まずは、日々の小さな工夫をすることから始めてみてはいかがでしょうか。

