即戦力を求めるほど、採用はうまくいかなくなる|経験者採用で見えた現実

多くの療育・福祉事業所では、採用の場面になると「即戦力」を求めがちです。

経験年数が長い人、前の職場で実績がある人。

そうした人を採用できれば、現場はきっと楽になる。そんな期待を、無意識のうちに抱いていることも少なくありません。


ただ、現場を長く見てきた立場として、ひとつはっきり言えることがあります。

それは、「経験が長い=安心して任せられる」ではないということです。

経験者を入れれば解決する、という誤解

採用がうまくいかない背景には、「採用の前に決めておくべき事項」が十分に整理されていないケースが多くあります。

たとえば、

  • どんな支援を大切にしているのか
  • 組織としてどこまでをフォローやサポートできるのか
  • 育成はどこまでを考えているのか

こうした点を言語化しないまま、「経験者だから大丈夫」「前の職場ではできていたはず」と期待してしまう。

これは、ミスマッチが起こる典型的なパターンだと言えます。

経験がある人ほど、環境の影響を受けやすい

実は、経験が長い人ほど、これまでのやり方や価値観、判断基準を強く持っています。

経験を積んできたからこそ身についた視点や判断は、現場にとって大きな財産になることもあります。


ただし、その経験値が今の事業所の方針や文化と噛み合わなかったとき、問題が表面化します。

たとえば、「支援の考え方」「スタッフ間の関わり方」「役割分担の意識」などが微妙にズレているだけでも、日々の現場では違和感として積み重なっていきます。


本人としては「これまでうまくやってきた方法」を選んでいるだけでも、周囲から見ると「この事業所のやり方を理解しようとしていない」「歩み寄ろうとしていない」と映ることがあります。

結果として、「できるはずの人が、なぜか力を発揮できない」「現場に溶け込めない」という状態が起こります。

これは決して能力の問題ではなく、また、「経験者が悪い」という話でもありません。

問題は、その人が持っている経験と、今の職場(環境)との相性です。


経験が長い人ほど、環境が変わったときに柔軟に調整することが難しくなる場合があります。

逆に言えば、経験が浅くても、環境に合わせて学び直す姿勢のある人のほうが、結果的に早く現場に馴染むことも少なくありません。


だからこそ、経験の量だけで人を判断することは、とても危険であるといえます。

大切なのは、「何年やってきたか」ではなく、「環境が変わったときに、どう動けるか」がポイントになります。

その視点を持たずに採用を進めると、経験者であっても当然ミスマッチは起こります。

私自身が経験者採用で学んだこと

私自身も、これまでに経験者採用で何度も苦い思いをしてきました。

経験があっても自分のやり方に固執し、事業所の方針に合わせることができない。

上の立場として指示を出し、スタッフを動かすことはする一方で、自分が学ぼうとする姿勢は見せない。

うまくいかないことがあると、「職場が悪い」「会社のやり方がおかしい」と他責にする。

採用となった方の中には、こういった姿勢の方もおられました。


その姿勢は少しずつ現場に伝わり、チーム全体の空気やモチベーションを下げていきました。


また、発言力の弱い新人や未経験者を自分の支配下に置こうとし、育てるよりも従わせる方向に向かってしまうケースもありました。

こうした経験を通して、「経験の有無以上に大切なのは、その人の姿勢」が採用において重要であるということを学びました。

問題は「人」ではなく「組織としての在り方」

採用がうまくいかなかったとき、私たちはつい「人が合わなかった」で片づけてしまいがちです。

けれど、本当に見直すべきなのは、以下の部分です。

  • どんな人を求めていたのか(経験値以外の部分)
  • 何を任せるつもりだったのか(業務の詳細と責任の明確化)
  • 組織として、どこまでサポートできるのか(教育やサポートの目標と限界点)

即戦力を求めること自体が悪いわけではありませんが、、「即戦力に頼らなければ回らない組織」になっているとしたら、そこには無理が生じているはずです。

また気付かないうちにほころびが出てきて、最終的には組織として「身動きが取れない状態」に陥ってしまうリスクがあります。

採用を見直すことで、組織の力は増す

経験者を入れても定着しない。思ったように任せられない。

そんなときは採用においての基準を「即戦力」にするのではなく、その人の「人となり」「仕事に向き合う姿勢や態度」におくことで、採用のマッチング精度は上がっていくものと思われます。


それが強固な組織の礎となり、自由闊達さや、組織としての柔軟性を生むことにつながるものと考えます。

こういったコツコツとした取り組みは、やがて来る制度改正にも耐えうる「強くてしなやかな組織」を作ることにもつながると言えます。