
療育事業所の現場には、多様な専門職が関わっています。
特にセラピスト(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・公認心理師など)と保育士(児童指導員含む)は、事業所の中核を担う二大職種です。
両者の専門性は本来「補完関係」にあるはずですが、現場ではしばしば「VS構造」が生まれます。
たとえば、以下のような意見での対立構造です。
- 保育士:「セラピストさんは細かい評価ばかりで、現場が回らない」
- セラピスト:「保育士さんは根拠のない感覚で支援している」
このすれ違いは、子どもや保護者にも悪影響を与え、事業所の評判や継続性にも関わります。
今回は、この「VS構造」を「WITH構造」に変えるための視点を、現場事例と経営的観点から掘り下げます。
1. セラピストの専門性と運営上の価値
医学的根拠に基づく評価力
セラピストは、発達検査・運動機能評価・言語評価などを定量化・構造化して提示できます。
この「数値」と「根拠」は、保護者説明や行政監査での信頼性を高めます。
- 標準化された評価法を使い、現状を“見える化”できる
- 医学的知識に基づき、改善の方向性を科学的に提案できる
- 行政書類やモニタリング報告書の精度が高まり、監査対応も安心
- 「なんとなく」ではなく、根拠を持った支援計画が立てられる
【経営視点のポイント】
いわゆる報酬加算やモニタリング記録の精度向上にも直結し、結果的に運営の安定化につながります。
ミクロ的分析
発達段階を細分化し、改善のための具体的アプローチを提案できます。
しかし、その精密さがゆえに、個別支援に集中しすぎて集団運営や時間配分が疎かになるリスクもあります。
- 体幹・手指の動き・発音器官など、部分的機能を詳細に分析できる
- 小さな変化を見逃さず、支援計画に反映できる
- ただし、細部にこだわりすぎて現場全体の流れを止めてしまうことも
客観性と冷静さ
セラピストは、感情よりもデータで判断する姿勢を持っています。
これにより、保護者とのやり取りやスタッフ間の議論において、第三者的で中立な意見を提供できます。
- 保護者対応で感情的にならず、事実ベースで説明できる
- チーム内での意見対立をデータで整理できる
- 外部機関との連携でも信頼されやすい
2. 保育士の専門性と運営上の価値
遊びを通じた発達促進
保育士は、遊びや日常生活の中で支援目標を自然に達成させる技術を持っています。
- 遊びや工作、日常動作を通じて発達課題にアプローチできる
- 子どもが楽しいと感じる形でトレーニングを組み込める
- 場面設定の工夫で、集団と個別の両方に対応可能
マクロ的視点
保育士は、個々の子どもだけでなく、場全体の安全や流れを同時に管理できます。
- 集団の雰囲気の変化を素早く察知できる
- 子ども同士の関係性を見守り、トラブルを未然に防ぐ
- 支援時間全体のバランスを調整しやすい
高い共感性と関係構築力
保護者や子どもとの距離を縮めるスピードが早く、安心感を与える存在です。
- 初対面でも打ち解けやすく、信頼を築きやすい
- 保護者が話しやすい雰囲気を作り、家庭からの情報も集まりやすい
- 地域のネットワークや口コミ形成にも強い影響を持つ
【経営視点のポイント】
保護者満足度の高さは、契約継続や紹介による利用者増に直結します。
3. 連携を阻む「壁」とは
現場では、両職種が同じ子どもを支援しているにもかかわらず、見ている角度や使う言葉が違うために、情報がうまく噛み合わないことがあります。
これが積み重なると、互いの評価や取り組みに対して「わかってもらえない」という感覚が生まれ、連携の質が下がります。
専門用語の壁
セラピストは「固有受容感覚」「筋緊張低下」などの医学的専門用語を使い、保育士は「バランスが取りにくい」「姿勢が崩れやすい」など感覚的な表現を使います。
どちらも同じ現象を指していても、言葉が一致しないことで共有がスムーズにいかず、結果として支援計画の解釈に差が出ることがあります。
優先順位の違い
セラピストは「発達改善の精度」を最優先に考え、保育士は「集団の流れや全体の安全」を優先する傾向があります。
例えば、セラピストが一人の子どもの評価に時間をかけたい場面で、保育士は他の子どもの安全や活動の進行を重視するなど、このズレが摩擦の原因になります。
評価と現場感覚のズレ
評価上はスコアが改善していても、日常の場面では変化を感じにくいことがあります。
逆に、現場では明らかに変化が見られても、評価の数値には反映されない場合もあります。こうした「数字と肌感覚」の差が、お互いの信頼を揺るがす要因となります。
4. 「掛け算」に変える運営戦略
この壁を乗り越えるためには、単に「仲良くしよう」という精神論ではなく、運営の仕組みとして連携を強化する工夫が必要です。
経営者や管理者の視点から、次の4つの戦略を意識すると効果的です。
役割の見える化
まずは、職種ごとのミッションを明確にして共有します。
「セラピスト=評価と専門技術のプロ」
「保育士=日常に支援を組み込むプロ」
といった役割定義を文章化・掲示し、誰が何を担当するのかを可視化します。これにより、曖昧な期待や誤解を減らせます。
強みの相互補完
セラピストが出した評価や分析結果を、保育士が保護者にも理解しやすい言葉や事例に置き換えて説明することで、保護者満足度が上がります。
一方で、保育士が日常で気づいた小さな変化やエピソードを、セラピストが評価データに反映することで、支援計画がより現実に沿ったものになります。
理念を軸にしたミーティング
日々のミーティングでは「理念・方針」に立ち返る習慣を作ります。意見が割れたときは、誰の意見が正しいかではなく、「事業所の理念に照らしてどちらが望ましいか」という軸で判断します。
これにより、職種間の優劣ではなく、共通目的に向けた議論ができます。
管理者の橋渡し役
オーナーや管理者または児発管は、両職種の「通訳」役になる意識が必要です。
専門用語と現場感覚を行き来しながら双方に伝え、相互理解を促します。
さらに、職種間研修や交流の場を定期的に設けることで、普段から互いの仕事を知り、尊重する土壌を作ります。
弊社でも「お互いさまの気持ち」で仕事をすることを社是としており、社員にはいつも「戦う相手は会社の中にいない」を繰り返し伝え、ともに戦う仲間として尊重しあうことを意識付けできるようにしています。
また、逸脱する人や守れない人がいる場合は、個人面談等を実施し改善を求めます。それでも改善できない場合は、役割から外すなどの措置を取ることもあります。
5. 現場事例(例として)
例えば、こんな場面を想像してみてください。
ある児童発達支援事業所で、セラピストが定期的な評価を行ったところ、Aくんに体幹の安定性の弱さが見られました。歩行や姿勢保持には大きな影響はないものの、長時間の座位活動で集中力が途切れやすい様子も観察されました。
この評価結果を受け、保育士は日常の活動に遊びを通じた体幹トレーニングを組み込みます。
たとえば、
- 集団遊びの中にバランスボール渡しゲームを追加
- 室内に簡易平均台を置き、順番待ちやごっこ遊びの一部として活用
- 制作活動の前に「姿勢ピン!ポーズ」を短時間導入
こうした取り組みにより、Aくんは「遊んでいる感覚」のまま体幹を鍛えることができました。
もしこのような活動が数か月続けば、姿勢保持の安定や集中時間の延長につながり、結果的に机上課題や集団活動への参加がスムーズになる可能性があります。
おわりに
セラピストと保育士、それぞれの強みは「足し算」ではなく「掛け算」で活かすものです。
VS構造を解消し、理念を共有して動けるチームは、必ず事業所の価値を高めます。
“違いを活かす”ことこそが、利用者満足と経営安定の両立への最短ルートです。
だからこそ、加算額を目的に安易にセラピストを雇用するのではなく、「この事業所において、セラピストをどのように活用するのか」をしっかり計画した上で、採用することが大切です。


